摂食・嚥下障害ともいい、食べること、飲み込むことの障害のことで、うまく食べられない、飲み込めない状態をいいます。
先行期 |
食物を認識し、口まで食物を運ぶ |
準備期: |
口腔内へ食物を取り込み、噛み切り、砕き、つぶし、唾液と混ぜ合わせ、飲み込める状態にする |
口腔期: |
食塊を口腔から咽頭に送り込む |
咽頭期: |
食塊を咽頭から食道内に送り込む |
食道期: |
食塊を食道から胃の中に送り込む |
という一連の過程をいいます。
これらの過程のどこか一箇所に障害があれば、摂食・嚥下障害が生じます。
食べ物をうまく口に運べない・噛めない・唾液や食べ物が口から出てしまう・口の中に唾液や食べ物が残る・食事に時間がかかる・食べ物を飲み込もうとする前にのどに流れる・うまく飲みこめない・唾液や食べ物がのどにたまる・つっかかる・食べ物が鼻にまわる・むせる・飲み込んだ後息苦しくなる・声がガラガラする・痰が多い・就寝中に咳が出るなどです。
障害の部位や種類によって固形物がうまく飲めない場合と液体がうまく飲めない場合があります。
嚥下障害のため肺炎を起こしたり、食べ物が気道を塞いでしまう窒息を起こすことがあります。
また、食事を摂ることが困難なため、体重が減ったり、低栄養や脱水になることもあります。
嚥下障害によって、食べ物が食道ではなく気管に入ってしまうことを誤嚥といいます。他の動物と比べて、人間では呼吸に伴う空気の通路と摂食に伴う食べ物の通路が交差する距離が相対的に長いため、誤嚥を起こしやすいと考えられています。
誤嚥に伴って肺炎を起こすことを誤嚥性肺炎といい、口腔内の細菌が食べ物とともに肺の中に侵入してしまうことが誤嚥性肺炎の最も大きな原因として考えられています。
とくに要介護高齢者では誤嚥性肺炎にかかる人が少なくなく、誤嚥性肺炎を予防するためには口腔清掃が極めて重要であることがわかっています。
脳性麻痺、ダウン症などの生まれついての疾患の方に摂食・嚥下障害がみられることがあります。
また、交通事故などによる脳挫傷や、低酸素脳症となってしまったお子さんにもみられることがあります。
お子さんの場合は、このような疾患だけが原因でなく、食べるための環境(食事内容や食べる姿勢、食べさせ方など)が不適切な場合や口を使った遊びの不足などが摂食・嚥下障害の原因となることがあります。
摂食・嚥下障害の原因となる疾患としては脳出血、脳梗塞などのいわゆる脳卒中(脳血管障害)が最も多く、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの進行性の疾患あるいは口やのどの癌の治療後にも摂食・嚥下障害がみられます。
食べること、飲み込むことに必要な神経・筋機構が年齢とともに衰え、口の中で食物を飲み込みやすい形状(食塊)に調整できない、食塊を食道内に送るための協調運動がうまく行えないなどのために摂食・嚥下障害が起こります。
また、のど仏(喉頭)の位置が下がり、飲み込む際に必要なだけ上げることができなくなるため、食塊が気道に入りやすくなります。
嚥下障害を早期に改善させるためには嚥下障害の部位と程度を的確に診断し、障害に応じて適切な治療を行う必要があります。
嚥下障害について問診を行ったり、嚥下に関与する器官の感覚や動きを観察します。
実際に食事しているところを観察します。
聴診器を首に当てて、嚥下時の音や呼吸音を聴診する場合もあります。
X線透視検査装置を使用して、身体の内部を透視する検査です。
造影剤入りの検査食を嚥下し、検査食の流れと嚥下に関与する器官の動きを判定します。
誤嚥もこの検査ではっきりわかります。
また治療法を決定したり、治療の効果を判定します。
ファイバースコープを鼻から挿入し、嚥下に関与する器官の動きや飲み込んだ後の食物の残り具合などを観察します。
超音波装置を用いて食べているときの舌の動きを観察します。
嚥下障害の対処法としては口腔清掃、排出訓練、嚥下に関与する諸器官の運きや知覚を高めることを目的とした機能訓練、食塊の流れを調整して誤嚥などの症状を取り除くための代償的方法そして手術療法の5つの方法があります。
誤嚥性肺炎を予防するためには、食前、食後に口腔清掃を行うことが必要です。
嚥下障害では口腔や咽頭に唾液や食物の一部が貯留している場合が多くみられます。
貯留物は気管内に侵入しやすいので、誤嚥性肺炎の発症を予防するためにも貯留物の排出は重要です。
1.口腔と咽頭の各器官の動きを改善する。
2.嚥下運動を起こしやすくする。
3.嚥下時の気道の閉鎖を改善する。
機能訓練法としては数多くの種類、方法があります。
なお、機能訓練は飲食物を摂食しながら行う直接訓練と飲食物を用いないで行う間接訓練とがあります機能訓練法の一例として、飲み込み方を工夫した方法である嚥下法を紹介します。
1.メンデルソン法(Mendelson maneuver) 嚥下時の喉頭の挙上運動を改善するために行われます。
2.息ごらえ嚥下法(声帯閉鎖嚥下法)、強い息ごらえ嚥下法(喉頭閉鎖嚥下法) 嚥下時の気道閉鎖を改善するために行われます。
3.舌根押し上げ嚥下法 嚥下時の舌の後方運動を改善するために行われます。
4.昭大式嚥下法(Takahashi maneuver) メンデルソン法、強い息ごらえ嚥下法、舌根押し上げ嚥下法のコンビネーションに相当する嚥下法で、嚥下障害の改善に適します。
代償的方法は食塊の流れを調整して、誤嚥などの症状を取り除くための方法です。
代償的方法を用いての摂食はすべて直接訓練となります。
1.姿勢調節法 嚥下時の姿勢を調節して、嚥下に関与する器官の位置関係や形を変えたり、食塊の流れを変えることにより嚥下障害を改善させる方法です。
2.一口量と食べるペースの調整 嚥下する量と摂食のペースを調整することによって嚥下障害を軽減する方法です。
3.食物の物性の調整 食品の物性を調節して食塊の流れや凝集性を変えて嚥下を容易にする方法です。とろみをつけて流れを遅くしたり、口の中でばらつかないようにすることが広く行われています。
4.摂食補助装置 舌接触補助床(palatal augmentation prosthesis)舌の運動障害に対しては歯科的技術を用いた装置が適用される場合があります。
また、特殊な工夫をした摂食補助具(特殊な形態のスプーン、食器等)を用いることもあります。
手術療法は機能訓練や代償的方法で嚥下障害の治療が十分行われたにもかかわらず、障害が改善されない場合に行われます。
手術療法は主に耳鼻咽喉科あるいは気管食道外科で行われます。
お子さんの嚥下障害に対しては、摂食・嚥下機能の発達を促すいわゆる“発達療法”が行われます。
摂食・嚥下機能の発達療法としては食環境の指導(適切な食具、食器、摂食姿勢、介助法の指導など)、食内容(形態)の指導および摂食機能訓練(間接訓練、直接訓練)があります。
発達障害の原因となった疾患(基礎疾患)の状態、摂食・嚥下機能の発達の段階に応じて適切な発達療法が根気よく行われます。
※当院ですべての診断法・治療法に対応できるわけではありません。
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