胃食道逆流性疾患に注目:歯科的課題と増加傾向への新たな対策・注意喚起

慢性の胸焼けの原因となる胃食道逆流性疾患では、食道を逆流した酸が口腔内に流入し、歯に重大な損傷を与えることが新しい研究で、米国の研究者によって明らかになるなど、改めて注目されてきている。

このほど、米国歯科医師会誌(JADA)に掲載された。
米テネシー大学健康科学センター修復歯科学准教授のDaranee Tantbirojn氏らは、胃食道逆流性疾患患者12例を対象にオプティカル(光学式)スキャナーを用いて慢性の胸焼けの影響を調べ、健常者6例と比較した。

慢性の胸焼けがある患者の一部は薬剤を服用していたにもかかわらず歯の侵食がみられた。
胃食道逆流性疾患患者を6カ月間追跡した結果、同疾患を有する患者のほぼ半数では健常者に比べ、歯の摩耗および侵食がはるかに悪化しており、最終的に歯が薄く鋭くなり、孔があくこともあることが明らかになった。
さらに胃食道逆流性疾患は酸逆流症としても知られ、酸を含む胃の内容物が食道内に漏れ、口腔内に逆流し、灼熱痛を引き起こすことも多い。
Tantbirojn氏は「どの人口集団においても一般的にみられる胃食道逆流性疾患が、歯の損傷を引き起こすという認識を高めたい。

歯科専門医が歯の侵食を認識していても、一般の人は知らない。
胃酸は、歯の表面を直接溶解させたり、歯の表面を柔らかくするほど強力である。
唾液は優れた身体の防御メカニズムを備えており、緩衝能力で酸を中和すると同時に、少量のカルシウムおよびリン酸を含み、歯の損傷を低減できる。
しかし、唾液にも限界がある」と述べている。
同氏は、酸逆流エピソード直後に歯磨きをしないで、フッ化物で口内洗浄することを勧めている。
歯科医は、酸逆流症患者用の特別な練り歯磨きの処方、歯を保護するために酸逆流エピソード後にベーキングソーダまたは制酸薬を服用するよう患者に勧めることができるという。

別の専門医は「口腔内の酸の減少にキシリトールガムも有効である」としている。

一方、"胃食道逆流性疾患" 鈴木秀和・慶大医学部准教授(消化器内科)は、その研究から、胃食道逆流性疾患の急増と指摘。
その背景について、消化器疾患における近年の変化を指摘する。
「食生活の欧米化や、胃の中にすむピロリ菌への感染率低下などで胃酸の分泌量が増す一方、肥満や高齢化の影響で逆流が起きやすくなっていることが原因だ。
胃食道逆流性疾患は患者のQOL(生活の質)を著しく損なう。

また、たかが胸焼けと軽く見ると、より重い病気が隠れていることもある。
胃潰瘍や胃がんは減っているのに、胃食道逆流性疾患だけが急速に増えている」と強調した。

また、「食生活の変化で動物性タンパク質や脂肪の摂取が増え、胃酸の分泌量が増えたことがある。
衛生状態の改善や除菌治療の広がりで、ピロリ菌の感染率が低下したことも大きい。胃の粘膜を荒らすピロリ菌がいなくなると、胃酸の分泌が活発化するため」とした。

また、さらに「未治療の胃食道逆流性疾患は狭心症や十二指腸潰瘍よりQOLを損なうとされる。

また、胃酸の逆流が繰り返されて炎症が続くと、食道の粘膜が変化した『バレット食道』という状態になり、そこからがんが発生することがある。

思い当たる症状があれば、早めに医療機関を受診してほしい」と鈴木准教授は注意を促している。